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ESRS S1は人の基準、IFRS S1はそうではない

Socious Team
ESRS S1は人の基準、IFRS S1はそうではない

同じ「S1」でも、中身は別のものです

二重開示のプロジェクト計画には、たいてい対応表があります。左に、グループがすでに適用している基準。右に、欧州子会社がこれから適用するESRS。そして誰かが、IFRS S1からESRS S1へ線を引いています。

この線は誤りです。しかも、埋まっていないデータの空白を対応済みと見なさせてしまう種類の誤りです。

名前は同じ、性格は別

IFRS S1は「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」です。ISSBが2023年6月に公表し、2024年1月1日以後開始する年次報告期間から適用されます。一般目的財務報告の利用者が企業への資源提供に関する意思決定を行ううえで有用な、サステナビリティ関連のリスクと機会に関する情報を、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標という形で開示することを求めます(IFRS財団)。横断的な基準であり、固有の主題を持ちません。

ESRS S1のほうは表題を「自社の従業員(Own Workforce)」といいます。自社の従業員に対する重要なインパクト、および関連する重要なリスクと機会を、サステナビリティ計算書の利用者が理解できるようにすることが目的だと定められています(EFRAG)。対象には、雇用関係にある人に加えて、労働の提供を内容とする契約を結ぶ自営業者と、雇用あっせんを主たる事業とする企業から派遣される人が含まれます。

二つのSは、サステナビリティとソーシャルという別々の語の頭文字です。似ているのは文字だけですが、対応表にその違いは映りません。

ESRS S1が実際に求めるもの

公表済みのSet 1では、開示要求は17項目です(EFRAG)。

  • S1-1 自社の従業員に関する方針
  • S1-2 従業員および従業員代表との対話のプロセス
  • S1-3 負のインパクトの是正プロセスと申立ての窓口
  • S1-4 重要なインパクトへの対応
  • S1-5 重要なインパクトの管理に関する目標
  • S1-6 従業員の特性
  • S1-7 従業員以外の自社労働力の特性
  • S1-8 労働協約の適用範囲と社会的対話
  • S1-9 多様性に関する指標
  • S1-10 適正賃金
  • S1-11 社会的保護
  • S1-12 障害のある人
  • S1-13 研修と能力開発に関する指標
  • S1-14 労働安全衛生に関する指標
  • S1-15 ワークライフバランスに関する指標
  • S1-16 報酬に関する指標(賃金格差と総報酬)
  • S1-17 事案、苦情、重大な人権インパクト

この一覧は、データの依頼書として読むと実務が見えます。国別・契約形態別の人数を出す必要があります。性別の属性を賃金データと結合し、国ごとにベンチマークした賃金水準も用意します。どの法人にどの労働協約が適用されているかを整理したうえで、労働災害の発生率、研修時間、育児休業の取得、苦情の件数を揃えます。

排出量のデータは一つもありません。そして、そのほとんどはサステナビリティ部門が管理するシステムの外にあります。要求事項を一つずつ追う解説はESRS S1の実務ガイドにあります。この記事が扱うのはもっと狭い問いで、欧州の外にある企業がこの一覧を初めて開いたとき、手元に何があるのかということです。

ISSBの基盤から持ち込めるもの

いまのところ、ありません。理由を正確に見ておく価値があります。

人的資本はリサーチ段階のプロジェクトです。ISSB自身の記述では、2024年から2026年の作業計画の一環として、人的資本に関連するリスクと機会の開示について調査を行っている、とされています(IFRS財団)。理事会への直近の報告は2025年12月10日で、基準開発の必要性と実行可能性が論点でした。決定は行われていません。プロジェクトページに示された次の節目は、方向性の決定そのものです。

つまり、労働力に関するIFRS S3はありません。公開草案もありません。基準を作るべきかどうかを判断する段階が続いています。IFRS S1とIFRS S2を完全に正しく適用しても、人に関するデータを一つも持たないことはあり得ます。S2は気候の基準であり、S1は財務的に重要と判断した事項に適用する全般的要求事項だからです。多くの製造業グループにとって、初年度のその事項は気候でした。

SSBJの場合

日本も同じ形になります。SSBJが同じ基盤の上に作られているからです。

SSBJは2025年3月5日に三つの基準を公表し、いずれも2026年3月13日に改正しています。ユニバーサル基準「サステナビリティ開示基準の適用」、テーマ別基準第1号「一般開示基準」、テーマ別基準第2号「気候関連開示基準」です。2026年6月11日には、温対法のSHK制度で測定した排出量を用いる場合の実務対応の基準が追加されています(SSBJ)。

この三つが扱うのは、基準の適用方法、一般的な開示、そして気候です。社会や労働に関する基準はその隣になく、公表予定も示されていません。時価総額による適用時期はSSBJロードマップのとおりですが、その順序のどこにも労働力の要求は加わりません。

結論は簡単に言えて、遅れて気づくと厄介です。SSBJ対応を二年進めた日本のグループには、排出量のデータ、ガバナンスの記述、シナリオ分析があります。開示基準に耐える労働力のデータはありません。それでも欧州子会社には提出義務が残ります。

誰が、いつから負うのか

欧州委員会は2026年7月3日に改訂ESRSを採択しました。必須の開示項目は60%超、開示項目全体では70%超の削減となります(欧州委員会)。改訂ESRSは2027年1月1日以後開始する事業年度に適用されます。

ESRS S1はこの改訂を経ても残りました。簡素化ESRSに関するEFRAGの技術的助言でも名称は「自社の従業員」のままであり(EFRAG)、重要なインパクト・リスク・機会に関係する場合、サステナビリティ計算書はこのトピックを含めなければなりません。基準が短くなっても、義務そのものは残ります。削減された開示項目は基準セット全体に及ぶもので、特定のトピックが丸ごと落ちたわけではありません。

オムニバス改正後に誰が対象となるかは別の論点で、CSRDオムニバスの解説にまとめています。この記事で重要なのは、適用範囲と主題が別の軸だという点です。対象企業が絞られても、なお対象に残る企業にとってトピック別基準は義務のままです。

この空白が構造的である理由

気候のデータには自然な持ち主がいます。エネルギーと燃料の数字を扱う人がグループ内にすでにいて、サステナビリティ部門はたいていその人に届きます。

労働力のデータは持ち主が複数に分かれ、そのいずれもサステナビリティ部門の下にはいません。契約形態別の人数を握っているのは人事です。賃金は給与計算のシステムに入っていて、多くは国ごとに分かれ、グループの連結対象から外れていることも珍しくありません。どの法人にどの労働協約が適用されるかを知っているのは協約を締結した当事者で、欧州ではそれが本社ではなく従業員代表委員会であることが多くあります。労働災害の記録はEHSが管理します。それぞれのシステムに固有の個人情報の扱いがあり、賃金の項目と性別の項目を結合すること自体が、複数の法域で法的な重みを持つ判断です。

だからこの空白は、提出直前の四半期には埋まりません。SSBJの報告範囲について書いたのと同じ話です。開示できる数字とは、報告書を書く前から存在していて、保証人が検証できる何かに裏づけられた数字のことです。

この四半期にやっておくべき四つのこと

  1. 対応表を分けること。 IFRS S1からESRS S1への行を消します。IFRS S1は本来の対応先である横断的基準に対応づけ、ESRS S1の参照元は空欄のままにします。計画を読む人に空白が見えるようにするためです。
  2. サステナビリティ部門の外に責任者を置くこと。 ESRS S1は、サステナビリティの期限を持った人事・給与のデータプロジェクトです。責任者がサステナビリティ部門にいると、データの依頼はいつまでも部門間の頼みごとのまま届きます。
  3. 報告する年度の中で集め始めること。 2027年1月1日開始の事業年度であれば、人数、離職、研修時間、労働災害の件数は、その年度が進む中で記録される必要があります。賃金格差は後から再計算できますが、月次の人数推移は事後に復元できません。
  4. 範囲を一度で決めること。 ESRS S1は契約により提供される従業員以外の労働力も含みます。派遣や請負の人数はもっとも算出しにくく、もっとも誤りやすい部分です。数え始める前に、どの法人とどの契約形態を含めるかを決めてください。

現在地を確認する

二重開示のグループがこの空白に気づくのは、多様性の指標を求めたときに四つのシステムが違う答えを返す瞬間であることが多いようです。無料のCSRDレディネスチェックは3分ほどで、保証で実際に問われる観点を採点します。socious.io/ja/csrd-check からどうぞ。

収集そのものが問題になっているなら、Socious Reportはその形に合わせて作られています。データセットを一度入れれば、CSRD・SSBJ・ISSBそれぞれの表示が生成され、各数値には後付けではない証跡が紐づきます。


Sources

Not asserted in this article, deliberately: no ESRS S1 datapoint count under the revised standards (the 60%/70% cuts are stated by the Commission for the set as a whole, not per topic), no CSRD scope threshold figures (linked to our Omnibus article instead), and no claim about when or whether the ISSB will publish a human capital standard.