GHGプロトコルScope 2改訂の現在地と日本の非化石証書
非化石証書を購入して、購入電力に伴う排出量をほぼゼロにしている。その数値が、2027年3月期から有価証券報告書に載ります。
計算の根拠になっているGHGプロトコルのScope 2基準は、いま書き換えの途中です。どこまで進んでいるかによって、今年作るべきものが変わります。
SSBJがScope 2に求めているもの
IFRS S2第29項(a)(ii)は、法域の当局または上場する取引所から別の方法を求められる場合を除き、GHGプロトコルの2004年版コーポレート基準に従って排出量を算定することを求めています(IFRS S2)。同項(a)(v)はScope 2について、ロケーション基準の数値と、利用者の理解に必要な契約証書に関する情報の開示を求めています。
SSBJは2025年3月5日に三つの基準を公表しており、気候関連開示基準がIFRS S2に対応します。義務化は、時価総額3兆円以上のプライム上場企業で2027年3月期から、1兆円以上は2028年3月期、5,000億円以上は2029年3月期です(SSBJロードマップ)。
この二つの項を合わせて読むと、証書で下げた数値の置き場所が実務の感覚とずれます。有価証券報告書に載せるのはロケーション基準の数値で、証書はそれに付随する契約証書の情報として説明されます。
温対法のSHK制度に慣れているほど、この感覚は逆になります。SHK制度では、環境大臣と経済産業大臣が電気事業者ごとの基礎排出係数(非化石電源調整済)と調整後排出係数を公表しており、非化石証書は調整後排出係数に反映されます。令和6年度実績の係数は2026年1月9日に公表されました(環境省)。SSBJではロケーション基準の数値を開示し、調整後の数値は契約証書の説明に使います。
改訂案が変えようとしていたこと
2025年7月14日、GHGプロトコルの独立基準審議会(ISB)は、ロケーション基準とマーケット基準の双方の改訂案を意見募集にかけることを、いずれも賛成10・反対1で承認しました(GHG Protocol)。
日本に効いてくるのはマーケット基準の側です。クリーン電力の主張に使う証書は、消費と1時間単位でマッチングされ、かつ実際に電力を届けられる系統エリアのものである必要がある、という案が示されました。制度的に義務付けられた電源や公的資金で支えられた電源については、平均的な持ち分までしか主張できないという整理も含まれます。適用除外の閾値も検討されています。時間別データがない場合の近似方法と、既存契約の経過措置も検討中です(GHG Protocol)。
同じページは、改訂後のScope 2基準の公表を2027年後半ごろとし、適用は複数年かけて段階的に入るとしていました。
いまどこまで進んでいるか
2026年7月29日、GHGプロトコルはScope 2の意見募集の結果と、それより大きな構造上の決定を同時に公表しました。
意見募集には56か国から約1,100件の回答が寄せられました。再生可能エネルギーの購入をどう計算するかについて、意見は分かれました。GHGプロトコルは複数の報告方法を検討しています。次の提案は技術作業部会と独立基準審議会で審議されます(GHG Protocol)。
構造上の決定のほうが大きな話です。GHGプロトコルとISOは、企業向けのカーボン会計基準を一つの共同ブランド基準に統合します。Scope 1・2・3とAMI(行動と市場商品)の作業を、ISO 14064-1と合わせる形です。統合後の基準についての意見募集は、2027年第2四半期に予定されています。
確定した改訂Scope 2の条文はまだなく、次の意見募集はより大きな文書についてのものになります。日本の提出者にとっての帰結は単純で、SSBJの初年度もオムニバス後のCSRDの初年度も、いまの2004年版コーポレート基準で測ることになります。
それでも改訂案を読む理由
非化石証書の制度は国内の課題から生まれました。高度化法により小売電気事業者は2030年度までに非化石電源比率44%を求められており、非化石価値取引市場は2018年5月の初回オークションから、その価値を電気とは別に売買できるようにしました(資源エネルギー庁)。
現在は二つの市場に分かれています。FIT証書を扱う再エネ価値取引市場と、義務履行のための非FIT証書を扱う高度化法義務達成市場です(資源エネルギー庁)。需要家が再エネ価値取引市場に直接または仲介事業者を通じて参加できるようになったのは2021年度で、新しい制度での初回オークションの約定量は約19億kWhでした(環境ビジネス)。
オークションは発電の四半期を対象に決済されます。証書が持っているのは量と期間で、時刻の情報はありません。
自然エネルギー財団は、この点が日本にとっての制約になると読んでいます。1時間単位のマッチングを入れると、時刻の情報を持たない現行の証書制度には大幅な仕組みの変更が必要になる、という指摘です。一方で、日本の条件は悪くないとも書いています。小売事業者は30分単位の消費電力量データを提供しており、送配電事業者は30分ごとの電源構成を公表しているからです。デリバラビリティについては、全国平均から10の送配電エリアへ範囲が狭まると読んでいます。賦課金で支えられているFIT電気は標準供給サービスの扱いとなり、平均的な持ち分までの主張に限られるという整理も示されています(自然エネルギー財団)。
これは一つの機関による草案の読み方で、その草案自体がいま作り直されています。方向の説明として読むのが妥当です。
二つの時計
日本の開示の時計のほうが、基準づくりの時計より先を走っています。SSBJの義務化は2027年3月期から、第三者保証はその翌年からです。CSRDのオムニバス後の初年度は2027年1月1日以後開始する事業年度で、公表は2028年になります。欧州子会社を持つ日本企業は、その時点で二つの規則を同時に動かしています。
改訂後の算定ルールは、そのいずれよりも遅れて、しかも段階的に入ります。作り直しの途中にある草案に合わせていま電力の算定を組み替えると、もう一度組み替えることになります。
それでも先に作れるもの
ロケーション基準の数値は、いまIFRS S2第29項(a)(v)が求めているものであり、どの案でも残ります。日本では公表済みの電気事業者別係数から計算できます。ここが動かない土台になります。
30分単位の消費データは、小売事業者からすでに届いています。保存の費用はほぼかからず、1時間単位のマッチング規則が入ったときに必要になるのはこのデータです。2026年から貯め始めれば、規則ができたときに使える履歴があります。
証書には発電所と対象期間を記録します。保証実施者は、その証書でカバーした消費量を確認します。
契約証書の説明は、検証される前提で書きます。第29項(a)(v)が求めているのは、利用者が理解するために必要な情報です。SSBJの最初の2年の保証範囲はガバナンス、リスク管理、Scope 1・2ですから、この説明はそのまま範囲に入ります。報告範囲そのものの論点も、まだ手の付いていない企業が多い作業です。
データの本丸はScope 3で、CSRD側でもSSBJの1年猶予でもそこが問題になります。Scope 2は相対的に片付いて見えますし、二回の報告サイクルのあいだは実際に片付いています。今年買った証書がどの規則で読まれるかは、そのあとの話です。
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