IFRS S2はあなたの会社に適用されない。それでも取引銀行は、あなたの排出量を必要としている。
ISSBについて寄せられる質問の多くは、「自社は対象になるのか」というものです。非上場の日本の製造業、ドイツのミッテルシュタントのサプライヤー、どの適用国にも属さない中堅企業——答えはたいてい「対象外」です。
ただ、その答えはまもなく役に立たなくなります。依頼は規制当局から来ないからです。取引銀行の担当者から来ます。
2025年12月にISSBが変えたこと
2025年12月11日、ISSBはIFRS S2の的を絞った改訂を公表しました。2027年1月1日以後に開始する年次報告期間から適用され、早期適用も認められています(IFRS財団)。
改訂は四つです。
- Scope 3カテゴリ15の測定・開示を、IFRS S2に定義するファイナンスド・エミッションに限定することを認める。
- ファイナンスド・エミッションを分解して開示する際に、GICS以外の分類体系を用いることを認める。
- 事業体の一部のみが別の測定方法を求められる場合に、GHGプロトコル以外の方法を使う法域別の救済措置が使えることを明確化する。
- 温室効果ガスの換算に用いる地球温暖化係数について、最新のIPCC評価報告書の値によらない法域別の救済措置を導入する。
四つとも金融機関のための改訂です。報告する側自身のスケジュールへの影響はISSB二年目で扱いました。この記事は、線の反対側の話です。
「ファイナンスド・エミッションに限定」は、広い定義です
一つ目の改訂は範囲を狭めるように読めますし、銀行にとっては実際に狭まります。投資銀行業務のファシリテーテッド・エミッションや、引受に伴う保険関連排出量はこの外に出ます。
内側に残るのは、貸すことと投資することです。融資、プロジェクトファイナンス、債券、株式投資、未実行のコミットメント、そして運用資産。与信枠を持つ会社は、ほぼ確実にどこかの金融機関のカテゴリ15に入っています。
つまりこの改訂は、銀行の報告範囲を狭めた一方で、借り手の母集団には手を触れていません。数値を求めてくる銀行は、これまでどおり求めてきます。
依頼の強さを決めているのはデータ品質スコアです
金融機関はPCAF(金融業界向けGHG算定・報告基準)でファイナンスド・エミッションを測定します。同基準のPart Aは「Corporate Value Chain (Scope 3) Accounting and Reporting Standardのカテゴリ15投資活動に関する要求事項に適合している」とGHGプロトコルのレビューを受けており、上場株式・社債、事業性融資・未上場株式、プロジェクトファイナンス、商業用不動産、住宅ローン、自動車ローンを対象としています。PCAFは署名機関700超、開示実績250超と公表しています(PCAF)。
このうち、事業会社に届くのがデータ品質スコアです。PCAFは、ファイナンスド・エミッションの各数値の裏付けを5段階で採点することを求めます。1は「投資先が報告した、検証済みの直接データ」、2は投資先が報告した未検証のデータ、3は投資先固有の物量データからの算定、4は業種平均の活動量データからの推計、5はプロキシデータや大まかな仮定による推計です(Stepchange)。
銀行は排出量と並べてこのスコアを公表します。そしてスコアは、銀行がどれだけ努力しても自力では上がりません。ポートフォリオが4から2に動くのは借り手が自社の数値を出したときだけで、2から1に動くのはその数値が検証されたときだけです。
依頼があなたのところに来る理由はここにあります。あなたのデータ品質が、そのまま貸し手の開示するデータ品質になります。
貸し手が実際に求めてくるもの
CSRDのバリューチェーン調査票より範囲は狭く、出所についてはずっと厳密です。実務上は五つに集約されます。
特定の会計年度のScope 1・Scope 2。 3年平均でも、3月決算を暦年で近似したものでもありません。銀行は自らの期間と突き合わせる必要があります。
バウンダリ。 どの法人を含む数値なのか、そしてその範囲が連結財務諸表と整合するか。子会社2社を黙って除いたグループ数値は、除外を明示した小さい数値より質が低いものとして扱われます。
算定方法と係数のバージョン。 どの排出係数を、どの公表年のものを使ったか。Scope 2はマーケット基準かロケーション基準か。方法の添えられていない数値は、出所が何であれ推計として採点されます。
検証の有無。 外部の検証を受けているかどうか。PCAFのスコア1と2を分けているのは、この一点だけです。
排出量を直接報告できない場合の物量データ。 延床面積、生産量、購入燃料、走行距離。スコア3と4を分けるのはここで、算定経験のない会社にとっては最も早く動かせる部分でもあります。データは操業側にすでにあるからです。
すでに答えている顧客向け調査票とは、別のものです
欧州の顧客からのバリューチェーン調査票に、すでに回答しているサプライヤーは多いはずです。二つの依頼は似て見えますが、流用はできません。
顧客からの調査票はESRSに沿ったもので、聞かれるのは納入する製品や、その顧客向けに動いている拠点の話です。締切も顧客の報告カレンダーで決まります。銀行が聞いてくる理由はまったく別で、IFRS S2とPCAFのために事業体全体の数値を、財務諸表と揃う期間で必要としています。顧客に出した回答をそのまま銀行に送ると、内容ではなくバウンダリと期間で通りません。
重なりは確かにあり、それは両方の下側にあります。検針票も請求書も係数の選択も、元は同じものです。この再利用についてはひとつのサプライヤーデータセットで、EUの四つの提出に応えるに書きました。バウンダリを一度記録しておけば、どちらの依頼もそこから引けます。
適用日が示すより、時間はありません
改訂の適用は2027年1月1日以後に開始する期間からで、早期適用も可能です。ただし、ある期間のファイナンスド・エミッションは、その期間をカバーする借り手のデータから組み立てられます。
日本の事情がこれを具体的にします。IFRS S1・S2を取り込んだSSBJ基準は、時価総額3兆円以上の東証プライム上場企業について2027年3月期から義務化され、2028年に1兆円以上、2029年に5000億円以上へ広がります。日本の大手銀行は最初のコホートに入ります。彼らが最初に報告するファイナンスド・エミッションが対象とするのは、すでに進行中の会計年度です。
同じ構図はISSBが適用された各国で起きます。法域ごとの状況はISSB導入トラッカーに、欧州側の重なりは銀行とCSRDにまとめています。
求められてから集計を始めると、閉じた年度を請求書から復元する作業になります。日々の記録として残していれば、その手間はかかりません。
用意しておく三つのこと
会計年度が動いているうちに、Scope 1・Scope 2を把握する。 検針票と燃料の請求書は、届いた月に集めれば簡単で、18か月後に追いかけると高くつきます。
数値と一緒に方法を残す。 係数の出典、公表年、Scope 2の算定方法、そして判断の根拠を、判断した時点で書き残す。数値が証拠になるのはこの作業によってです。
バウンダリを一度決めて、使い回す。 同じバウンダリで、貸し手にも、最大の顧客にも、そして将来自社が対象になったときの報告にも答えられるようにします。その報告が何を求めるかはISSB解説に、日本での順序はSSBJロードマップに、続くシナリオ分析はSSBJ2027 気候シナリオ分析ガイドにあります。
まずは今期のScope 1・Scope 2と、そのバウンダリを一枚にまとめるところから始められます。
自社のギャップを把握したい方は、無料のSSBJレディネスチェックとCSRDレディネスチェックをご利用ください。数分で、スコアではなく具体的な項目のリストが返ります。Socious Reportはその先を担います。ひとつのデータセットからCSRD・SSBJ・ISSBの報告書を作成し、その結果に独立したSocious Verifyのクレデンシャルを付与します。