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IFRS S2の業種別指標が書き換えられる。効いてくるのは執筆ではなくデータ収集の側だ。

Socious Team
IFRS S2の業種別指標が書き換えられる。効いてくるのは執筆ではなくデータ収集の側だ。

気候関連開示の実務をIFRS S1・S2に沿って組み立てているなら、関心の大半は本体の基準に向いているはずです。いま実際に書き換えが進んでいるのは、その一段下の層です。

2026年3月、ISSBは公開草案SASB/ED/2026/1『SASBスタンダードおよびIFRS S2業種別ガイダンスの改訂案』を公表しました。コメント期限は2026年7月24日です(IFRS財団)。ISSBが2024年7月に決定した、優先12基準の改訂プログラムの二つ目の草案にあたります。2025年7月の草案は残る9基準を対象とし、そのコメント期限は2025年11月30日に終了しています(IFRS財団プロジェクトページ)。

今回の草案の対象

包括的な見直しの対象として選ばれたのは、次の3基準です。

  • 農産物(Agricultural Products)
  • 食肉・鶏肉・乳製品(Meat, Poultry & Dairy)
  • 電力事業・発電(Electric Utilities & Power Generators)

あわせて、対応する『IFRS S2適用のための業種別ガイダンス』3巻についても、付随的な改訂が提案されています。このガイダンスはSASBスタンダードから導かれたものであり、ISSBは両者の整合を保つために並行して改訂します。草案はその関係を明記しています。SASBスタンダードの気候関連の内容はIFRS S2業種別ガイダンスと同一であり、違いはSASB側がファイナンスド・エミッションを含む点だけです。IFRS S2ではこの論点を付録Bの適用ガイダンスで扱っています。

ISSBは2026年2月にこの草案を承認し、IFRS S2への付随的改訂も同月に承認しました。理事12名のうち11名が賛成し、リチャード・バーカー氏は反対しています。同氏の別意見は草案とともに公表されており、提案がどこまで固まったものかを見るうえで押さえておく価値があります。

任意適用の層が、それでも効いてくる理由

IFRS S2は業種別ガイダンスの適用を義務づけてはいません。求めているのは、参照し、適用可能性を検討することです。多くの作成者にとって、そして保証を担う側から見ると、これは「理由を述べれば省ける指標」と「黙って省ける指標」の違いにあたります。

つまりこの層の変更は、体裁の問題ではありません。開示が照らされる基準点が、業種ごとに動きます。

指標の変更を並べると、負担の所在が見える

草案の付録Aは、影響を受ける指標を新旧対照で示しています。農産物の巻から4つ挙げると、傾向がはっきりします。

現行の指標改訂案の指標
FB-AG-110a.1 グローバルのスコープ1排出量(総量)(1) スコープ1排出量(総量)、(2) 排出規制の対象となる割合
FB-AG-110a.2 スコープ1排出量の管理に関する中長期の戦略または計画、削減目標、目標に対する実績分析の記述スコープ1温室効果ガス排出目標の説明と、目標に対する実績分析
FB-AG-110a.3 車両燃料消費量および再生可能燃料の割合(1) 車両燃料消費量の合計、(2) 再生可能燃料の消費量
FB-AG-130a.1 (1) エネルギー消費量の合計、(2) 系統電力の割合、(3) 再生可能エネルギーの割合(1) 事業活動におけるエネルギー消費量、(2) 購入電力量、(3) (a) 自家発電および (b) 直接契約による再生可能電力の消費量

執筆側の変更はFB-AG-110a.2だけです。「記述(discussion)」の要求を「説明(description)」に置き換えるもので、これまで丁寧に開示してきた企業なら手元に材料があります。

残る3つは、保有すべきデータそのものを変えます。

FB-AG-110a.1は、スコープ1排出量のうち排出規制の対象となる割合を追加します。これを出すには、排出のある拠点ごとに、それがどの規制の下にあるかを紐づけ、その紐づけがレビューに耐える必要があります。多くの排出量インベントリは合計が正しくなるように作られており、規制区分で切り出せるようには作られていません。

もっとも重いのはFB-AG-130a.1です。「再生可能エネルギーの割合」から「自家発電と直接契約に分けた再生可能電力の消費量」へ移ると、数値は契約上の出所に依存します。どのkWhが自家発電由来で、どれが直接契約由来か、拠点別・年度別に把握しなければなりません。電力会社の年間電源構成の通知から再エネ比率を計算してきた場合、その情報は手元になく、後から導くこともできません。

FB-AG-110a.3は些細に見えて、そうではありません。割合は比率が分かれば報告できます。実数を二つ出すとなると、それぞれの分母を測って突き合わせることになります。

これは基準のメンテナンスに繰り返し現れる形です。開示の文章は短く明快になり、その裏側のデータはより細かくなります。公表された趣旨もその方向を裏づけています。ISSBはこのプロジェクトを、国際的な適用可能性、他の枠組みとの相互運用性、自然資本と人的資本の論点、IFRSサステナビリティ開示基準との用語整合の観点から位置づけ、改訂の狙いとして作成者にとっての「明確性、簡潔性、費用対効果」を挙げています。読み手にとっては確かな改善です。ただ、作成者が測るべき項目が減るわけではありません。

時期の見方

ISSBは、公表から12か月から18か月の間に発効日を置き、早期適用を認めることを提案しています。発効日はコメントを踏まえて決定されます。コメント期限が2026年7月に終了していることを踏まえると、この幅は、すでに日程が決まっている二つの義務化と重なりうる時期に入ります。

  • 日本のSSBJ。 最終基準は2025年3月5日に公表され、時価総額に応じて段階適用されます。プライム市場で時価総額3兆円超の企業は2027年3月期から、1兆円超は2028年から、5,000億円超は2029年からで、2026年2月の内閣府令によって確定しました。SSBJ基準はIFRS S1・S2の日本版にあたります。
  • EUのCSRD。 指令(EU) 2026/470は2026年3月18日に発効し、縮小された適用範囲は2027事業年度から、最初の報告書は2028年に提出されます。

ISSBの判断を予測しているわけではありません。指摘は算術の範囲にとどまります。多くの企業がどちらかの制度で最初に報告する年度と、業種別指標の定義が動く時期が重なりうる、ということです。この時期に、いまの指標の文言が動かない前提でデータ基盤を作るのは分の悪い賭けです。

いま何をしておくか

3基準のどれかが自社かを確認する。 農産物、食肉・鶏肉・乳製品、電力事業・発電のいずれかであれば、草案の付録Aを現行の指標一覧と突き合わせ、文言が変わるものではなく、入力データが変わるものに印を付けてください。

この二種類を計画上で分ける。 文言の変更なら執筆で済み、数日で片が付きます。入力の変更はそうはいきません。多くの場合、発生源に新しい項目を作り、その項目の担当を決め、比較可能な開示を出す前に丸一年分を溜める必要があります。

定義変更に耐えるかを試す。 実務的な問いは、指標が二つに分かれたときに何が起きるか、です。昨年の指標一覧に答えるために組んだ表計算から報告を始めているなら、定義変更のたびに全拠点へ聞き直すことになります。契約単位・拠点単位の粒度を保った一つのデータセットから始めているなら、定義変更は対応付けの作り直しで済みます。

私たちが作っているのは後者です。Socious Reportは、社内に散らばった数値を一つのデータセットにまとめる部分を引き受けます。同じデータからCSRD、SSBJ、ISSBの報告書をAIが作成し、独立した立場のSocious Verifyが認証を付けます。基準が指標を変えたとき、必要になるのは再収集ではなく対応付けの更新です。

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